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私の英語デビュー

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私は話すのが苦手な人間だ。
話すよりも書いた方が余程楽だと思って来た。
日本語ですらまともに話せないのだから、
英語など尚更である。
しかし絵のために何としても海外に行き、
向こうの人達と交流したかったから、
そんな事は言ってられない。
これはそんな人間の英語デビュー記。





初めて海外に行ったのは33歳。
それがヨーロッパとアメリカを周る、
4ヶ月の旅になった。
リュックに着替と絵の道具を入れて、
大部屋の安宿に泊まりながらの、
バックパッカー貧乏旅行だ。

通貨はもちろんユーロではない。
マルク、フラン、ペセタ、リラ、ギルダー・・・。
アメリカは9,11遥か前の、
まだどこものどかな時代だった。

旅立つ前に約半年をかけて、
高校時代の教科書、参考書と問題集を、
もう一度最初からやり直した。
英会話の本も買って、
旅行英語の暗記もした。
それなりに自信を持って出発したのだ。



忘れもしない。
最初に英語を試されたのは、
ドイツのミュンヘンでの事だった。

予定していた民宿に行くと、
ドアに張り紙がしてある。
”Geschlossen”
小型のドイツ語辞典で調べてみると、
”閉鎖中”の意味だ。
いきなり出だしからつまずいた。

仕方がないので、
地図に出ていたYMCA(CVJM)に行って、
今夜の宿を取る事にした。
しかしそのYMCAで、
どう話しても英語が通じない。
そのうち「シッ、シッ」と追い払われてしまった。

しばらくは途方に暮れて、
仕方がないので駅の案内所に行く事にした。
しかし駅の案内所のリストにある宿は、
皆どれも高いものばかりだった。
「もっと安いの。トイレ・シャワーは共同でいい!」
一生懸命に説明したが通じない。

仕方がない。
気は進まなかったが、
もう一度YMCAに行く事にした。
YMCAなら半分の値段だ。

行くと露骨に「また来たのか」という顔をされた。
それを見て緊張の余りに全身が凍り付いた。
そして出て来た言葉は、

「アー、ルーム?」

すると、

「オー、イエス」

これで通じてしまった。
思いっきり気が抜けた。
私の初めての海外旅行と英語のデビューは、
こうして始まったのだった。














by farnorthernforest | 2012-08-10 10:27 | 旅の事

制作や旅や登山についてなど。


by 山下康一