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画家になるまでに




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少し前に「昭和45年の銀座」という写真を見ました。
道の周りはゴミだらけです。
そう言えば子供の頃はどこもこんなだったよなぁと、
何か懐かしく思い出しました。

よく海外の人から日本の国は清潔だ、
民度が高いなどと評価されますが、
決して大昔からそうだった訳ではないのです。
努力によって変わって来たのだと思います。
それはとても素晴らしい事ですね。



今年は三月末くらいから、
天気の良い日は外へスケッチに出ています。
昔はスケッチをしていると、
後ろに人だかりができたものでした。
ただ見ているだけならいいのですが、
必ずと言っていい程、
誰かが頭の上から絵画指導を始めるのです。

毎度の事とは言え私もうんざりしているので、
差し障りのない程度に無視していると、
次はまた必ずと言っていい程、
ご自身の絵の自慢話が始まるのでした。
外でスケッチするのは楽しいのですが、
このご指導と自慢話には本当に辟易したものでした。

ところがここ10年くらいは、
人だかりができる事も絵画指導を受ける事もなく、
それどころか最近5〜6年は、
「ちょっと見ていていいですか?」
などと許可を求めるケースがとても多くなりました。
以前からすると信じられないくらいマナーが良くなっています。
ここでも時代は良い方に変わって来ていると感じます。



若い頃は長野県某所のとても景色の良い所、
しかし人々は極めて閉鎖的な地域に住んでいました。
例えばご近所さんに挨拶をすると、
最初の頃は9割以上の人に無視されました。
私はそこに約20年住みましたが、
結局半数以上の人々は最後まで全くの無視でした。

引っ越して来て数年、
この事について一度大家さんに聞いた事があります。
すると大家さんは、
「そりゃ当たり前だわ、よそ者に挨拶する必要はない」
と即答。
他にも色々な事がありました。
例えば近所に泥棒が入った時には真っ先に疑われ、
頭ごなしに怒鳴られたりしました(しかも二度までも)。
犬猫も地元民の飼い主がいると思えば気を使いますが、
よそ者はここでは犬猫以下の対応・存在でしかありません。

その頃東京で本の編集者さんとお会いした時の事。
田舎暮らしブームが話題になったので、
私が少し自嘲気味に私が住む地域の閉鎖性について、
色々と具体的な体験をお話しすると、
即座に、
「それ、本にしましょう!」
「?」
「今は田舎暮らしブームですから、
安易な田舎暮らし願望に警鐘を鳴らすのに絶好の話題です!」
とすごい鼻息。
「もちろんペンネームでいいですよ!」
私はネガティブな事を広めたくないので、
丁重にお断りしました。

忘れもしない2001年9月中旬、
ご近所さん達が私を見るなり、
無視するどころかそそくさと逃げる様になったのです。
子供達は悲鳴を上げて走り去ります。
これには今まで様々な差別を受けて来た私も心底驚きました。
一体何が起こっているのか。

程なく緊急の回覧板が回って来ました。
赤い紙に黒字で印刷された不気味なその回覧板には、
こんな事が書かれていました。

「米国にて同時多発テロ発生につき、
当地域でもテロの可能性が極めて高まっています!
(誰が命を賭けてこんな田舎でテロをするのか?)
ついては以下の項目に少しでも該当する人物が近くにいた場合は、
速やかに警察まで通報して下さい!」

1. よそ者。
2. 独り者。
3. 定職が無い。
4. 昼間家にいる。
5. 夜遅くまで電気がついている。
6. 何をしているかわからない。
7. ・・・・・

羅列されていた10項目の内、
7〜8つは私に当てはまっていました。
あぁ、これだ。
つまり私はテロリストだと思われたのです。




さて、その後二度の引越しを経て、
今は長野県第二の都市・松本市に暮らしています。
ご近所さんをはじめ地域の方々に受け入れて戴き、
以前からしたら勿体無い様な対応を頂戴しています。

松本市には有名な登山基地・観光地の上高地がありますが、
この春私の絵を支援して下さる方々によって、
特別なご配慮と大変なご尽力の末に、
上高地に自由にマイカーで出入りし、
スケッチが出来る様にして戴きました。
ご存知の様に上高地には大変厳しい交通規制が敷かれています。
警察の許可を得た指定された車と、
バスまたはタクシーしか入る事ができません。
それが私は好きな時に上高地に入って絵を描き、
しかも作品を環境省のビジターセンターに展示して戴ける様になったのです。
何という有り難い事か、
ただただ感謝するしかありません。

以前だと職業を聞かれた時に絵を描いていると言った途端、
会話は断絶、冷たい空気が流れ、
時にはその場を逃げ出されたりした事もありました。
そう言えば昔は「坊主と絵描きは乞食と同じ」と言いました。
私の父は最後まで「オメエ、いつまで遊んでる気だ」と言っていました。
つまり絵を描くなどという者はロクな者ではなかったのです。

しかし今はリスペクトをもって歓迎して戴き、
私の方がかえって恐縮しています。
知らず知らず時代も環境も変わり、
私はテロリストから画家に昇格したのでした。

ちなみに前述のかつて極めて閉鎖的だった地域は、
今は世代交代をしたのでしょうか、
とても開放的で先進的な地域になり、
新しい試みをたくさん行いメディアの話題になっています。
メデタシメデタシ。



















by farnorthernforest | 2018-04-30 00:02 | 日々の事について

制作や旅や登山についてなど。


by 山下康一