写真展を観る①
2021年 04月 05日
東京都写真美術館で、
白川義員さんの写真展を観て来ました。
普段写真展や写真集はまず観ませんが、
アンセル・アダムス、田淵行男さん、山崎猛さん、
そして白川義員さんの作品は時々観ています。
この人達の写真には他にない違いを感じます。
それは何故その写真を撮るのかというコンセプトです。
芸術は先ずコンセプトがあって、
次にそれをどう表現するかがあります。
それが明確でないと中身が抜けてしまいます。
絵画とか写真とか音楽と言う様な表現の手段よりも、
その事が絶対的に大切です。
展示の中にインタビュービデオがありました。
最初の写真集『アルプス』を出版した時、
日本では「何を今更アルプスなんて」言われたそうです。
そして写真集は日本では2,000部しか売れなかったそうです。
ところが海外では「革命的写真」と評価され、
80万部売れたそうです。
棟方志功、岡本太郎、池田満寿夫、草間彌生同様、
この方も逆輸入の人だったのです。
絵の世界に限らず、
既存のカテゴリーに分類する事が仕事だと思っている、
日本の識者の見識は斯くの如しです。
そして海外で評価されれば追従する。
勉強する目的と場所が違うのではないかと思います。
また作家も日本で評価されようとして、
それに追従しては創作者として自殺行為です。
新しい何かを創ってこそ芸術であり創作です。
人と違う事を嫌う日本では、
創作活動は常に注意が必要です。
さて、それ程広い会場ではありませんでしたが、
3時間程掛けてじっくりと丁寧に鑑賞しました。
ある部屋で作品鑑賞していた時の事。
マスクをした小柄なご老人が入って来て椅子に座り、
静かに作品を観ていらっしゃいました。
私からは後ろ姿しか見えませんでしたが、
直感的に白川義員さんご本人と確信しました。
他の大勢の来館者とは、
発しているエネルギーが明らかに違います。
創作する人間のエネルギーです。
それは以前富良野の『北時計』さんで個展をしていた時に、
脚本家の倉本聰さんとお会いした時に感じたものと同じです。
やがて作品を巡っている内に横顔を拝見する事が出来ました。
やはり間違いありません。
他の大勢の来館者が誰も気付かないのが少し滑稽でした。
しばらくして会場を出て行かれました。
そして外から歓声が聞こえました。
自宅に戻りホームページ(オフィシャルサイト)を読みました。
「今こそアメーバのごとく増殖肥大する人間の欲望を、
宗教的自制心によって抑制するか方向転換しない限り、
人類という種に明日はない。
人間が人間の原点に回帰し、人間性の回復を図る以外、
人類滅亡の危機を乗り越える手だてはないのだ」
私が初めは環境問題を学び、
やがて芸術の道に進んだのも同じ理由でした。
「宇宙の背後にある精神的な存在とのかかわりあいと、
それに対する畏敬の感情がなかったならば、
人間は今日の様な人間にはならなかったであろう。
現代においてはそのようなものは失われてしまったとされるのだが、
私は人々の心の深層に必ず存在するであろうと思う」
実在が余白という私の墨絵も、
このコンセプトの一つの表現です。
ですからまだ数は少ないとしても、
理解して下さる方がいるのです。
写真展を観て思う事はたくさんありましたが、
翻って自分がどう生きるか、
そしてどう表現するかを考えました。
やらなければならない仕事はたくさんあります。
by farnorthernforest
| 2021-04-05 11:08
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