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写真展を観る②




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(2014年セドナで筆者撮影)








東京都写真美術館で、
再び白川義員さんの写真展を観て来ました。
この写真展は一期と二期に分かれていて、
一期は『永遠の日本』、二期は『天地創造』、
今回はその二期です。

5/23日、
25日から東京都が緊急事態宣言と正式発表があり、
都内のすべての公立施設が休館になると聞いたので、
24日予定を変更して急遽東京に行って来ました。

心配した電車は往復ガラガラでした。
会場も混雑という事もなく、
今回もゆっくり4時間掛けて鑑賞しました。

この日は白川さんの講演もあり、
それも聞く事が出来ました。
その中でのエピソードを少しご紹介致します。



1969年、
最初の写真集『アルプス』を発表した時、
日本では全く無反応だったそうです。
そしてこの写真集は、
日本では20年掛けて2千部しか売れなかったそうです。

ところが同じ本がアメリカでは初版がすぐに売り切れ、
ニューヨークタイムス、ワシントンポストが絶賛。
その後世界各国で合計80万部売れたそうです。

「自分は新しい仕事をした」
若かった白川さんがそう言うと、
それまで無反応だった日本の大新聞大週刊誌が、
今度は白川さん曰く「嘘八百」を並べて総攻撃、
争う事も考えたそうですが、
以来日本では静かにする事にしたそうです。

これはとても良く解ります。
私も程度は違いますが、
2017年ドイツの美術史家に「世界的歴史的に例がない」と言われ、
その後ドイツで二度の個展、
その後アメリカへも飛び火しました(コロナで延期中)。

しかし日本では、
「描き方が間違っている、邪道、外道」
という評価が大半です。
これは地方の個展だけではなく、
長年続けた銀座の個展でも違いはありませんでした。

有名評論家や有名画廊の方がたまたま会場に入って来られ、
先ず大抵は「こういう絵は見た事がない」と仰り、
次には「正しい絵、正しい芸術とは何か」を講義されました。
日本には「正しい芸術(周りと同じ)」「間違い(周りと違う)」があり、
「正しい芸術」に属していなければ決して認めない、
つまり既存のカテゴリーに分類出来る物でなければならないのです。
日本は違いを認めない文化なのだと言えます。

日本以外の国々のアートは誰かに似ていたら失格です。
私は若い頃に海外でそれを学びましたから、
その場で色々と話した事もありますが、
「絵はこう描かねばならない」
と信じて疑わない権威の使徒達には何を言っても通じません。
これはただの井の中の蛙で勉強不足なだけなのですが、
いくら話しても私の時間とエネルギーを無駄にするだけですので、
以来私も「静かにしているのが一番」と考えておりました。

例外は2018年に北のアルプ美術館の館長山崎猛さんが、
「齢八十にして絵に対する考えが変わった」と展覧会を企画して下さったり、
そのご縁で二科会理事長の田中良先生からお電話でご感想を戴くなどごく少数です。
ですが理解して下さる方が確実にいらっしゃる事が私に力を与えてくれます。



また印象に残ったのは『ヒマラヤ』撮影の時の話。
複雑に国境が絡み合うヒマラヤ奥地の航空撮影の許可が下りず、
行き詰まっていた時に、
なんと国王陛下の一声で専用機をお借りし、
堂々と飛行撮影出来た事。

その26年後の『世界百名山』撮影の時。
高さ8千メートルの山々を撮影するためには、
高度9千メートルの高さを飛ばなければならない。
ところが当時インド、ネパール、パキスタンに、
高度6千メートル以上飛べる民間機がなく、
アメリカから持ってくる事も考えたそうです。

ところがある航空会社が「どのくらいの時間飛ぶつもりか」と言うので、
計画書を提出すると、
高度9千メートルまで飛べる飛行機を買ってくれたのだそうです。

『南極』の撮影の時には許可を取るのに18年、
そのための費用は十数億円掛かったそうです。
その努力の継続と、
資金集めのためのご苦労に本当に頭が下がります。

国境が複雑に絡み合うヒマラヤ山脈を空撮した人間も、
その麓を東西3,000km歩いた人間も、
南極大陸を一周した人間も、
多くが紛争地帯の中にある聖書の聖地を全て撮影した人間も、
白川さんの他にまだ誰もいません。
正に前人未到の連続だったのです。

白川さんはこう言いました。
「準備95%、撮影5%」
しかしその「撮影5%」も、
天候やその他の条件に恵まれなければかないません。

今回の展覧会の元になった写真集、
『永遠の日本』と『天地創造』の二冊も、
日本では「今まで撮った写真の寄せ集め」の様に報道されたそうですが、
実際にはもう許可を取るのが不可能なヒマラヤの写真と、
最初の写真集『アルプス』を作った時の未発表写真一枚を除いて、
全てを80歳を過ぎてから撮り直したのだそうです。
その世界中に渡る取材地の広さと数に驚かずにはいられません。



さてこれらは勿論お話のほんの一部です。
何度も大事故に巻き込まれて2.5回死んだとも仰っていました。
これだけの困難を乗り越えて撮影を続けて来られた、
そのエネルギーは一体どこから来るのでしょうか。

私はそれは写真に込めたコンセプトから来るのだと思います。
コンセプトから使命感が生まれ運を引き寄せる。
使命感とは自分がやらなくて誰がやるのかという、
歴史的仕事をしている自覚です。
その詳細が分かる白川さんの各写真集の序文やあとがきは、
公式ホームページで読む事が出来ます。

今回二回の展覧会を観ながら、
私も本当の事を言おうと思いました。
勿論決して自分から声高に主張したりはしません。
それは私の生き方ではありません。
ただ何かを聞かれた時には、
黙っていたり誤魔化したりせずに、
思う事を静かに言おうと思います。

それによって攻撃されても、
嫌われて個展にお客様が来なくなっても、
今はもう構わないと思っています。
私はただ自分を放り出して、
歴史の道具と成ればそれで十分です。
今の日本人が評価しなくとも、
既に海外の人達は評価して下さっていますし、
いつか日本でも歴史が評価します。

少し前のNHK日曜美術館で、
ニューヨーク在住のアーティスト松山智一さんがこう言っていました。
「生きるか死ぬかで制作してるんだ。
生きるか死ぬかで生きてない奴の意見を聞く程無駄な事はない」
よく言った!という感じですが、
自分に嘘をついたり負い目を感じるのは不幸です。




















by farnorthernforest | 2021-04-26 10:26 | 日々の事について

制作や旅や登山についてなど。


by 山下康一