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グレン・グールドの言葉




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NHK FM の番組、
『アート・オブ・グールド〜孤高のピアニストの肖像〜』
を聞き逃しで聴きました。
絵を描くのにも、
いやそれ以上にアート全般に通じるであろう、
珠玉の言葉の数々でした。



私はこの分野には余り詳しくないのですが、
グールドと聞いて思い出す事があります。
正確な年数は忘れましたが、
多分15年くらい前にある大変立派な経歴をお持ちの、
日本人ピアニストのコンサートに行き、
その方が演奏の間の話でグールドを酷評していたのです。

当時の私にはその酷評を評価出来るだけの情報がなく、
これ程の経歴をお持ちで素晴らしい演奏の出来る方が、
コンサートで他人を批判しなくてもいいのではないか、
ただそう思っただけなのですが、
この時の話は以後忘れずに頭の中に残っていました。

しかし今回この番組を聴いて、
長年の謎が解けた気がしています。
つまり簡単に言うと絵の世界と同じで、
日本では主流あるいは王道を歩いて来た方、
言い換えると誰もが認めるお墨付きの経歴の方には、
そこからはみ出した様な個性は認められないのです。

もしグールドが日本に生まれていたらどうなっただろうか、
そんな事もちょっと想像しましたが、
海外では批判もありながらちゃんとコンサートもし、
レコードも出しているのですから、
やはり好き嫌いは別として違う個性を排除せず、
それはそれとして認める文化がある事を改めて思いました。



この番組で特に印象に残ったのは、
16歳の時に実際にグールドに会った事があるという、
ピアニストの熊本マリさんの体験談の中のグールドの言葉です。

簡単にご紹介すると、
トロントに友達と遊びに来ていた熊本マリさんは、
ご自身の弾くモーツァルトをグールドに聴いてほしいと突然思い、
グールドに手紙を書きます。
しかし返事が来ないので自宅を訪ねると、
偶然帰宅するグールドに会うのです。

そこで自己紹介をしてあなたに手紙を書きましたと言うと、
グールドは「あぁ、読んだよ」と答え、
今はあなたと話す事は出来ないから、
今夜アシスタントから電話をさせると言われます。

それを見ていたマンションの管理人さんは驚きの余り動けなくなり、
そしてこう言います。
グールドはトロント市内に三件くらいマンションを持ち、
人嫌いだから人を見掛けた途端に逃げる様に帰ってしまう。
ところがあなたには話し掛けてくれて、
あなたは本当にラッキーだと。

そしてその夜アシスタントから電話が来て、
グールドから大切なメッセージを預かっているから、
これから言う事をよく聞いて下さいねと前置きして、
こう告げられます。


"私は誰の演奏も聴いた事がないし、
これからも聴く事はない。
私はあなたの演奏を聴いても、
あなたの才能を判断出来ない、
資格がない。
才能は自分自身が創るもの。
あなたは自分自身を信じて、
あなたの才能を創って下さい。
グッド・ラック!"


グールドの亡くなる二年前の事でした。



自分が何を目指すのか目指したいのか、
出来るかどうかではなくまず目標(方向)を定める事が、
アートの世界では大切だと思っています。

誰もが認める"正しさ"に向かって努力する、
つまり他人の評価を目標にするか、
あるいは自分自身の中に答えを求める、
たとえ評価されなくてもいいと覚悟を決めるか。

走り出す方向が違えば、
努力すればする程目標からは離れて行きます。
そしていつか必ずその人を苦しめる様になります。
自分が本当は何を目指したいのか、
それはその人にしか分かりません。
これは決してどちらが良い悪いではありません。
その人の生き方の問題です。

この放送は「NHKらじる・らじる」の『聞き逃し』から、
12月3日(土)午後6時まで聴く事が出来ます。



















by farnorthernforest | 2022-11-30 10:57 | 日々の事について

現代風景画家 山下康一のブログ


by 山下康一